■司法書士法改正要綱案策定に関する意見募集について

 当協会は、日本司法書士会連合会による司法書士法一部改正に関する検討項目にかかる意見募集に対し、以下の内容の意見表明を行いましたので公表します。


2022年8月18

日本組織内司法書士協会

会長 早川将和

 

組織内司法書士に関する司法書士法改正要望事項

 

 

第1 依頼に応ずる義務

 依頼に応ずる義務は、独占業務を担う資格者として、公共的役割を担っているという意味で、一定の妥当性を見出すことはできるが、以下の理由からその正当性には疑問がある。

 

1平成14年の報酬自由化により実質的に空文化していること。

 すなわち、各司法書士が自由に設定した報酬に依頼者が合意できなければ、当該司法書士は依頼を拒絶することができる訳であり、実質的な義務付けは現制度下では不可能といえる。電気、ガス、郵便や医師のようなサービス提供にかかる義務は価格の拘束なくして成立しない。

2従来本条を正当化してきた理由が妥当しなくなってきていること。

 司法書士業務が新たな利害関係や法律関係を創造するものではないなど(注釈司法書士法222頁)、従来本条の義務を正当化してきた理由は、複雑化する依頼や多発する偽造事件において、専門家責任を問われる事態が一定程度発生している現実や、犯罪収益移転にかかる社会情勢を見ると、あきらかに不審な依頼に対しても、拒絶するのに「依頼を拒絶する正当な理由があるかどうか」を調査させるような過度の義務を負わせているものと評価することもできる。

3同様に独占業務を有する他士業(弁護士、公認会計士、税理士、弁理士や海事代理士等)にこのような義務がないこと。

 国から独占業務資格を付与された資格者の公共的役割を負うのは他の士業も同様である。

4依頼者の司法書士の選択の幅が広がっており、依頼に応ずる義務の必要性そのものが低下していること。

 登記統計によれば、1992年からの30年間で登記件数は2071万件から1256万件に減少しており、同期間において司法書士数が約16,000人から22,907人に増加したことで、司法書士一人当たりの登記件数は半分以下となっている。インターネットの普及による司法書士へのアクセスのしやすさ、オンライン申請環境が整ったことなども踏まえれば、この数値以上に環境は改善しており、この義務がなければ司法書士に依頼ができないという事態は想定しにくい。

5この条項が存在することで、司法書士の職業選択の自由を害するような運用がなされる恐れがあること。

 現状、依頼に応じる義務の意味合いがやや広くとらえられており、登録申請において、平日日中には常時、依頼に応諾できる体制を求めるというような運用がなされている。本来、営業時間や休業日の設定は事業者が自由に設定できるものであり、依頼者から見ても、平日日中ではなく、土日や夜間に相談したいニーズもありえるところである。また、このように依頼に応じる義務が厳格に運用されることで、結果として司法書士は司法書士業務しかできない、というような職業選択の自由を害することにもつながっている現状がある。

 一方で、他の士業の兼業は広く認められている現在においても、業務多忙が受託拒絶の正当事由にあたると解されているのは、兼業する他の士業の業務が多忙で司法書士業務を断ることが正当事由として容認されていると見ることもでき、運用上の矛盾も生じている。

 

第2 法第16条1項1号「引き続き二年以上業務を行わないとき」の削除

 司法書士となる資格を有する者が司法書士となるべく登録をしているにも関わらず、需要がないことのみをもって憲法が保障する職業選択の自由をはく奪するものであり、妥当ではないと考える。現実に、広告活動を行わなければ、2年間業務の依頼を受けないことがそう稀でであるとも思えない。

 弁護士にはこのような規定はなく、公認会計士、税理士、弁理士等については、業務を廃止した場合に抹消する旨の規定があるものの、これは業務を廃止するか否か、本人の自己決定に委ねるものであるといえ、業務を行わないことをもって強権的に登録を抹消ないし取り消しを行うような規定はない。

 なお、本規定は、司法書士会を退会した司法書士が司法書士会に入会していないため業務を行いえない場合を指しているとされ、運用として、みなし退会等により司法書士会に入会していないことから業務を行いえない者を対象に、2年の経過をもって本規定により登録の取り消しをしているとの指摘がある(注釈司法書士法214頁)。しかしながら、そのような事態のみを想定するのであれば、条文の意味する内容は広すぎるし、現行制度上、そのようなねじれが生じるのであれば、制度のねじれ自体を解消すべきであると考える。

 

第3 法第20条「司法書士は、法務省令で定める基準に従い、事務所を設けなければならない。」の変更

 事務所設置義務は、場所を定めることで法律関係を明確にし、所属司法書士会の指導権を確保するほか、単一の事務所に司法書士が常駐することで、非司法書士活動を防ぐことなどが目的とされる(注釈司法書士法221頁)。

 しかしながら、いわゆる「使用人司法書士」のように、独自の事務所を設置しているとは言い難い司法書士が容認されている現状に鑑みると、すべての司法書士に一律に事務所設置を義務づける現行の制度は、既に形骸化しているものと思われる。司法書士会の指導権は、住所の登録によっても確保可能であり、リモートワークが普及した今、単一の事務所に司法書士が「常駐する」ことが常識であり続けるかも疑問である。

 税理士については、リモートワークをはじめとする情報化社会の進展による執務の在り方の変化に対して、事務所の判定基準を見直し、税理士は必ずしも事務所における執務を義務付けられるものではなく、使用人等も必ずしも同一の場所で執務しておらずとも監督義務を果たしうるとする柔軟な対応を行っている(税理士法基本通達40-1等)。

 後述する組織内司法書士のような在り方も視野に入れれば、事務所設置がどのような場合に義務付けられるものなのか、義務付けられたとして、今後想定される執務の在り方に照らしてどう定義されるべきなのかは検討の余地があり、本規定の適正化を検討すべきである。

 

 

・あるべき司法書士像

 上記で提案した内容は、「会社その他の組織に所属する司法書士(組織内司法書士)」を認めることを前提とするものである。行政改革・規制緩和により事前規制から事後の監視と救済という社会システムの変革に伴い、司法書士のみならず、士業全体の在り方も変わる時期にきている。

 法律手続における代理人という従来の在り方は、たとえば商業登記では、会社における意思決定とそれに係る手続が完了したのちに、行政(法務局)と一体となっていわば事前規制の一翼を担う存在として役割を果たしてきたと考える。一方で、事前規制を撤廃して事後救済を充実するという中では、「事前規制をパスするために形式を整える」ことは無意味となり、本来の意味での法の遵守や適切な運営が行われていたかが、より一層重視されることとなると考える。

 民法・会社法に通じた我々に今後求められるのは、法的な手続を見通したうえで適切な意思決定ができるようにアドバイスし、意思決定後の手続についてもリアルタイムでサポートすることで実体法のエンフォースメントを担保することである。

 司法制度改革においても、内外ルールの形成や運用などの場面において、法曹の役割の重要性が増すこと、様々な事業体を法の支配のもとに適切に運営することへの貢献が述べられており、そのような流れの中で、旧弁護士法30条で規定されていた公務就任禁止は廃止され、営利業務の許可制も届出に変更されている。

 制度の大きな変革の中で、あくまで従来の業務の在り方に固執すれば、変化していく社会ニーズに制度が取り残されることにつながる。司法書士は法令に基づく民法・会社法関連業務の適切な運営について十分な知見を持っており、これらを社会に還元していくには、これまでのように、「登記の依頼」があった場合に限り、外部から手続代理人として関与するというだけの関わり方ではなく、何らかの行為をするか否かの意思決定の段階で内部から関与し、その適正な運用をサポートするようなあり方も必要と考える。

以上